中村扇雀の公式ブログ

「上方歌舞伎女形三題」

2011年4月25日

下四月新橋演舞場公演が終わり歌舞伎の本興行は八月の新橋演舞場公演までお休みです。

その間いくつか仕事はしていますので都度ご報告します。

その前に昨年12月から今月まで演じた上方歌舞伎の代表的な女形三役を振り返りたいと思います。

京都南座十二月「河庄」小春

2010年12月30日11時48分24秒.pdf009.jpg

まず去年の顔見世での"小春"
この役は初役でしたが必ず演じる役ですので自分なりに随分研究を重ねていました。

治兵衛はすでに手がけていますので演目全体の流れは体が覚えています。
おさんの手紙を読み別れる決意をしてから治兵衛にあってしまい、本心を隠しながらただ耐え忍ぶこと。
そして治兵衛の言葉に感情が動き始めて会ってお互いに惹かれ合った時の感情が再び蘇りそれを押し隠している間こみ上げる感情を押し殺しじっとしているることのつらさは相当大変です。
彼女は一人で自害を決意したと思います。朝日新聞の西本さんの劇評て"重い"という表現がありましたが、この役はどう演じても"軽く"はできません。
治兵衛の言葉一つ一つにリアルに感情が動きますので、死を決意しながら表に出さず、心から惚れた男にののしられることをじっと耐えていると、おのずと空気は重くなって行きます。そこが伝わっていれば私は逆に上出来のうちかと考えています。

先日仕事でご一緒した壌 晴彦さんが見て下さっていたらしく、「小春で涙しました」といって下さりとても嬉しく心の中で小躍りしました。

小春は大好きな役ですが、いづれまた治兵衛も演じると思いますがその時小春は・・・。


大阪松竹座一月 「吉田屋」夕霧

2011年01月07日08時58分47秒.pdf001.jpg

この役はまず第一に格が無くては勤まりません。
そして、伊左衛門との間に子供があることを忘れてはいけません。

数年前に私の伊左衛門で父の夕霧という逆バージョンで演じたことがありますが、その時に体の動きより気持ちの動きがこの役はより重要であると感じました。
常磐津が入り舞踊劇の流れですので振り事が中心ですが、振りに気持ちを置くより、大事な事は伊左衛門に対する気持ちの動きです。
その夕霧の気持ちがぶれずにいると伊左衛門も演じやすくなります。
そこを心がけて勤めましたが、はからずも父から「おもしろかったよ」
と千穐楽に言われた時は大きな満足感に浸りました。

東京で上演したいですね。

四月新橋演舞場 「封印切」梅川

2011年04月06日09時19分06秒.pdf010.jpg

玩辞楼十二曲の中でもこの演目が上演頻度は一番多いかも知れません。
今回の梅川はめまぐるしく変わる梅川の心情をリアルに丁寧に創っていきました。
その結果以前のブログにも書きましたが、
「死んでくれとはもったいない、わしゃ礼言うて死にますわいな。」
の台詞を泣き落としの義太夫の三味線を排除して、喜びと感激の感情を全面に出しました。
すると次の忠兵衛の
「もっともじゃ。もっともじゃ。」
の間合いがどんどん長くなり梅川の言葉に呼応しているかのようでした。
こうして今までにない空間がそこに生まれました。
稽古の段階では父は何百回と演じているので本意気ではやりませんので、舞台上の僕の梅川に瞬時に反応して忠兵衛としての言葉が出て来たのです。

勘太郎さんが来月明治座で同じ演目を上演するので何度も舞台を観に来ていたのですが、
「毎回違いますね。」
「藤十郎の叔父ちゃまどこで息を吸っているのか分かりません。」
と悩んでいました。

父は二十歳前後に当時の綱太夫さんに直接義太夫を習っているので、義太夫の演目になると、文楽の太夫さんが語っているのと同じ息で演じるので、相手役をしているときは引き込まれます。
「曾根崎心中」の天満屋のお初の台詞は黒御簾の中で見ながら一緒に台詞を言っていても息継ぎが分からず、初めのうちはちょっと信じられませんでした。
今でこそ何とか同じに近い息で台詞が言える様になってきましたが、勘太郎さんは戸惑っていると思います。
25日に稽古をみたのですがそっくりまねなくていいと思うよと言ったのですが、5月1日2日の二日間稽古を見に行くのが楽しみです。

是非皆さんも明治座へ五月足をお運び下さい。

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コメント

通常の歌舞伎の筋書などに書いてない、別の見どころを教えていただくと、次の観劇の楽しみがさらに増します。
台詞を語る「息」、なるほど~
5月松竹座、6月博多座両方伺いますが、藤十郎丈の演目は、両方舞踊のようですね。。。
明日、松竹座で昼・夜連続観劇した後、明後日、北九州に移動し、舞踊の会を拝見します。。。自分で計画を立てまして、歌舞伎観劇弾丸ツアー。
今月は明治座も伺いますので、勘太郎丈がどのようにお稽古で息継ぎを研究されたか、それを拝見するのも密かな楽しみになりました。
観客も結構エネルギーがいるものですが、楽しいのでついがんばってしまいます。仕事だったら、この弾丸出張は、きついかもしれません。

みゅんさん
弾丸ツアー楽しそうですがちょっと大変そうですね。

今日松竹座昼夜で明日北九州まで来ていただき感謝感謝です。鷺娘最後ですので、眠くならぬよう頑張ります!

私は本日北九州に入りいきなり舞台稽古一回のこちらも弾丸公演です。
長唄さんと合わせるのは今日だけで本番に臨みます。
そこはプロ魂をお見せします。

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