中村扇雀の公式ブログ

「残り2日間」

2013年6月22日

国立劇場の「紅葉狩」も後2日間の公演となりました。

21日間42公演が終了致しました。丁度3週間経ちました。
すでに多くの方にご覧頂きありがとうございます。
あと26日の静岡公演を含めると6回となりました。

初日から回を重ねて変わってきたこと、また演出上変化したことなどをお話します。
今回舞踊を演じる中で一番感じたことはやはり曲を演奏して下さる演奏者の方が7割から8割メインで演者は残りではないかということです。これは亡くなった富十郎のお兄さんがよくおっしゃっていたのですが、勿論お客様は踊っている役者を視角にに捕らえているのですが
踊っている私自身は曲に乗って踊っています。と言うよりは1つ見方を変えると踊らせられているのかも知れません。芝居は台詞のリズムや間は役者が作れますが、曲は演奏者に委ねられていますので役者は何も出来ないに等しいんです。足を踏む間等は役者の体を見てくれますがそこに至るまでの全体の流れがありますので突然ゆっくりにもできません。
また今回の紅葉狩の歌詞は風景の描写が多いのですが、私自身心に描きそれが目の前に浮かんでその空気の中に入って踊っています。ですから演奏者の方にその風景を見せてもらうことが大切になってきます。また感じること。その感覚が客席にいる皆様に同じように伝わり同じように目の前に見えてきたら最高なのではないでしょうか。

この「紅葉狩」という演目は、お姫様で出てきても実は鬼女ですので何とか維茂を引き止めたいのですが、あからさまには出来なませんので難しいところです。引き止める台詞も微妙に感情を入れるように変わってきています。姫の気品優先にすると感情が表現しにくく、感情優先ですと気品が崩れそうになります。その中間を探っているところです。
岩橋が維茂を止めに行く前に田毎に目配せをするのは途中から始めました。そこは下品にならないことを心がけています。
お酒を飲ませる件で維茂は3回飲みますが、最後の1回は目を合わせないように変えました、心でしめしめと思ってそっとお酒を飲んでいるのを確認しつつ伺っています。
自分が飲むときに維茂と目が合い照れ隠しで飲む飲み方も初日よりはかなり表現を大きくしています。

"妾が拙き舞振りは"の台詞以降の踊りの手順は藤間宗家の振りを守っています。
ただ、最後にお扇子を閉じる前に手前に跳ね上げ一回転させるのは私の案です。
初日から変わったのは歩幅を箇所箇所で狭めたこともあります。
常磐津の「滑らかに」で鬼の心が少し出かかり「緑の」と長唄に変わる変わり目は維茂を見た瞬間に長唄の三味線の方に「はっ」と大きく声をかけて頂くのですが、当初は鳴物とかぶって聞こえにくかったので、僕が顔を見る間を遅らせて解決しました。その後の「緑に茂る」では足の踏み方を初日よりは早くしています。これも維茂に正体を見破られないためのごまかしなのでとんとん運ぶようにいたしました。
両手でお扇子を回す件でどうしても左手の回すのが苦手で何度か左の回転が途中で止まってしまいました。振りに影響はないのですが片手になると見た目が悪くなりますので今後の課題です。
ニ枚扇はお姫様に相応しくない振りではありますが、九代目團十郎の彼女がお扇子屋さんだったので宣伝の為にニ枚扇の振りにしたと、浅草文扇堂のご主人に聞いたことが有りますが、嘘のような本当の話のようです。引っ込む前の「こーれ」の台詞は「こ」を高い女形の声で出し「れ」で低い音に下げています。これはあまり皆さんやっていないかと思います。
後ジテは隈に紅を目の下と口に残したのは正解だと思っています。鬼女の女の部分を表せていると思います。また裾を引いたままの後ジテも私は袴より動きにくくなりますが、演ってい女の気持ちになりやすくお客様にも女の部分を感じて頂く一つの要素になっていいと思っています。
幕切れの紅葉は初日は扇風機を使いましたが威力がなく全く効果が得られなかったので、全体に紅葉を降らす演出に変えましたが、好評のようで喜んでいます。
小枝を維茂に2本投げるのが決まりのようになっていますが、私は1本にしています。大きい枝を抜いたつもりが小枝だったので相手に投げつけ次に大きい枝を抜く思い入れで1回に変えました。

まだまだ有りますがあまり専門的なことはつまらないと思いますので、このへんにしておきます。

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コメント

紅葉狩、初日に観劇させて頂きました。
表現の仕方や台詞の言い方、紅葉の演出も変えられているのですね。
明日、お伺いする予定なので楽しみにしています。

七月松竹座のチケットが届きました。
東京以外の劇場で歌舞伎を観るのは初めてです。
こちらも楽しみにしています。

つまらなくありません。
扇雀さんの文章はスッキリとして、難しいこともわかりやすく説明してくださり、
とても興味深いです。
「本当に頭のよい人は、難しいことを子どもでも理解できるように説明できる」
と、あるノーベル受賞科学者が言っていたそうですが、
まさに扇雀さんはそういう方だなあと思いながら、いつも拝読しています。
いよいよ明日、観に行けると思うとワクワクとドキドキです。
隈取をしているときの貴重なお写真も見せていただき、
ますます楽しみです。

久しぶりのブログですね(^^♪
ラッキーなことに今日午後に国立に伺います。
舞台を拝見するのが一層楽しみになりました♪♪
印刷して持って行きます。

詳しいお話、ありがとうございます!
先日、二度目の観劇をした際に「前回と変わってる」と思った所もあったのですが、詳しく書いて頂いたので、今日は注意深く観たいと思います。

先日6月10日に歌舞伎観賞教室を最前列で観させて頂いた高校2年の女子です。歌舞伎を観るのは初めてのことで、当日とても楽しみにして行きました。初めて観た歌舞伎は言葉では言い表せない、すごく胸にグッとくる素敵な時間でした。女性より女性らしい仕草1つ1つがくっきり脳裏に焼き付いています。女人禁制の歌舞伎の世界はまるで女性が居ないのが嘘のように感じました。今回の教室を期に日本の伝統芸能である歌舞伎に興味を持つことが出来て本当に素晴らしい機会をいただけて嬉しく思っています。今度は個人で歌舞伎の舞台を観に行きたいと思っています。あと、こちらには載せられなくて残念なのですが、絵を描かせていただきました。もしよろしければ画像検索していただければ見られると思います。

舞台をつくるというのは本当に大変なことなのですね。
かかわっていらっしゃるすべての方のおかげで私たちは歌舞伎を楽しむことができることが少しわかった気がします。
感謝です。

扇雀さんの歌舞伎のお話、今回は特に扇雀さんの思いが強く伝わってきて感動しました。
これからもどんどんお願いしますね。

それにしても「紅葉狩」見たかったです。

くらりさん

「紅葉狩」観ていただきたかったのですが、ご要望が多いので是非近いうちにまた演らして頂きたいと思っています。

聖川薫さん

返信が遅くなり本当に申し訳ありません。まだ高校生ということですので、この多くの歌舞伎作品に触れていただきたいと思います。末永く歌舞伎を愛して下さい。

mamiさん

1ヶ月の間にどんどん成長していく月もあります。

かぶちゃんさん

返信が遅くなり申し訳ありません。是非感想お願いします。

じゅんこさん

いつもありがとうございます。返信が遅くなり申し訳ありません。「紅葉狩」は回数を重ねていきたいと思っています。長唄を杵屋勝之弥さんにお願いしていたのですが今回は叶わなかったので是非次回はお願いしたいと思っています。舞踊は地方さんが8割です。

梅☆さん

紅葉狩は初日とだいぶ変わったと思います。好きな演目になりまし。

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